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2009年06月12日

50.F3(1)

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翌日の昼、恭子はシルバーストーンでF3のセットアップを何度も繰り返していた。数周走ってはピットに戻り、マネージャーとメカニックとディスカッションしてはセットアップを変える。休む間もなく、それを繰り返す。

『だんだん、カートに近いクルマになって行く・・・。』恭子はフォーミュラ・リノー、よりもダイレクト感の強いF3を楽しんでいた。

同じ日の夕方、顕児は宮城らとAGPのファクトリーに到着した。契約業務がまだ残っていると言って、ハリソンだけはロンドンに残った。

AGPのファクトリーはドイツのザクセンにあるマクデブルクに拠点があり、ドイツ第3の常設サーキット、オッシャースレーベンをホームサーキットとしている。

顕児はすぐにF3のシート合わせを行った。ホテルに戻ったのは夜11時を過ぎていた。

翌朝、目覚めるとすぐに顕児は支度をして食事を取り、一人で再びAGPのファクトリーに向かった。13:00までに行けば良いと言われていたので、近所の街並みを眺め、エルベ川の河岸でくつろぎ、幾つかの店を覗いてのんびりと過ごした。

「昼食はどうした?」

12時半頃に顕児がAGPに着くと、宮城が聞いた。

「途中で食べてきました。」

「そうか。じゃ、俺はこれで日本に戻るから。」と忙しそうに宮城が顕児の肩を叩いた。

そして、

「まだ、通過点なんだからな。」と顕児を凝視した。

「はい。」

顕児は声を抑えて、だが、宮城の目をキッと見つめ返して答えた。

「ケンジィ、&%);○◎△□#!&」

良く判らないが、明らかに顕児のことを呼んで手招きしている人物が居る。

昨日会ったばかりのチームオーナー兼マネージャーのオルヒムだった。

まるでボールのような判りやすい体型が、覚えやすくて幸いだった。

『さあ、行くぞ!』顕児は一度だけ腹筋に力を入れて、そのあと足早にオルヒムの方へ歩いて行った。



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posted by 北乃 道晴 at 23:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 050.F3 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年06月13日

50.F3(2)

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BPマーチン・レーシングのメカニックは慌しい状況で徹夜の作業を続けていた。

外して置いてあるマシンのカウルには『KYOKO』と書かれている。

「間に合わせてくれよ!」そう言いながら、男が1人ガレージに入ってきた。

「スコット。キョーコの容態はどうなんだ?」メカニックが、男に気付いてすぐに聞いた。

「少し首を痛めた程度で済んだみたいだ。とにかくすぐ休ませた。」スコットと呼ばれたその男は、メカニック全員に聞こえるように大きな声で答えた。

「完全にエンジンがダメになってるしな・・・、モノコック自体に歪みがあっても不思議は無いだろう・・・。」メカニックはスコットが見つめるマシンについて説明した。

「あのスピードでぶつけられてはな・・・。スペアマシンを取りに行く時間が無いのも痛いなぁ。」スコットがため息をついた。

イギリスF3のフリープラクティス中に、恭子は1コーナーで追突された。

タイヤバーストによってブレーキが全く利かなくなったマシンに最高速でぶつけられたわけだ。トラブルを起こしたマシンは恭子の頭上を飛び越えて、1コーナー奥まで転がっていった。そのマシンのドライバーは両足の複雑骨折で病院へ緊急輸送された。

衝撃の激しさで、恭子も暫くマシンに閉じ込められたままだったが、暫くして自力でマシンを降りることが出来た。

チームメンバー全員が、その光景を目の当たりにしていた。

「運が良かった・・・。本当に。」

そうとしか言えないほどひどいクラッシュだった。

「ただ、キョーコは絶対に明日走ると言っている。頼むぞ、みんな!」スコットはもう一度全員に聞こえるように大きな声で言った。

ガレージに居た全員が、無反応に、だがさらに集中して作業を進め始めた。



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posted by 北乃 道晴 at 08:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 050.F3 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

50.F3(3)

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翌朝、恭子がピットに現れた。Tシャツにデニムスカートのラフな格好だった。

まるで昨日のことを忘れたかのように、いつもどおりの笑顔で、

「ッモーニン!」恭子が声をかけた。

「キョーコ、良かった元気そうで。」

「痛みは残ってないか?」

と、メカニックはみな手を休めて口々に言った。

と、恭子はマシンのリヤウィング後ろに『いやらしい!お尻に触らないで!』と書かれた紙が張られているのを見つけた。

「だーれ?まったくもう。」と嬉しそうに笑った。

「走ってみてからでないと判らないことだらけだが、やれるだけやってみた。」チーフメカニックのルイスが話しかけてきた。

「うん。さっそくセットアップを始めましょう。予選までまだ時間があるから。」恭子はすぐに答えた。

フリープラクティスは実質30分程度。

2周走ってピットに入り、調整して、すぐにコースイン。

何度か繰り返したが、昨日までのマシンとは全く違った性格を戻すことは無理だと判断した。

「ブレーキングで左右に振動しながら傾く?」スコットが目を点にして言った。

「危険すぎるよ。これ以上は歪みを吸収できるほど調整しろは残っていない。」ルイスが忠告した。

「タイムも1秒以上落ちてしまっているんだぜ。」

さすがにスコットも、この言葉には同意せざるを得なかった。

「このレースは見送ろう。」そう、スコットが言い出した。

そのとき「1ポイントでも取れるかもしれません。」と、恭子が反対した。

「気持ちはわかるが。キョーコ、冷静になることも大切だ。周囲のドライバーを危険にさらすことにもなりかねないんだよ。」

「ええ、でもこの状態で安定していてくれるのなら、まだ私の適応次第で充分ポイントが取れるタイム差です。」

実際、プラクティスでは恭子のタイムはトップ3であり、4位以下より0.6秒以上のタイム差を付けていた。

どうする?という表情でルイスがスコットを見つめる。

「判った、公式予選の結果で最終判断しよう。」スコットが言った。



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posted by 北乃 道晴 at 12:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 050.F3 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする




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