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2009年06月08日

45.壁(1)

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「こ、こんな狭いところでレース!?」

筑紫1000サーキットは筑紫サーキットに併設された小さなコースで、カートレースやジムカーナのようなタイムトライアルに使われる程度の全長と道幅しかない。

そこで、顕児と純也のFJ1600を同時に2台走らせて10周のレースをすると、千葉が言い出した。

「スタートは純也が前だ。」千葉が言った。

「社長、タイムは顕児の方が速いんですよ。」純也も面食らっている。

「さっさと始めろ、いいから!」厳しい顔で千葉が2人に言った。

スタッフ総出で、マシンを前後に並べた。

純也と顕児がマシンに乗り込む。

「正気かよ・・・」孝雄が顕児のマシンに寄りかかって、スタートを待っている千葉を見た。

そのとき、顕児が孝雄に向かって、「やっぱ、ぶつけたら社長に怒られちゃうかなぁ・・・。」と言った。

「・・・。」孝雄は答えられなかった。

「よし、始めよう!」千葉の声を聞いて、担当メカニックはマシンから離れる。

純也と顕児が千葉を見つめているのを確認して、千葉が右手を上げて大きく振り下ろした。

『スタートだ!』顕児も純也も一気にスタートして行く。

1周のタイムで1秒も早い顕児は純也にすぐに追いついてしまう。

スタート直後のフォーミュラー・カーは驚くほどブレーキが頼りない。

F1をテレビで見ると、スタート直後に1コーナーで追突するシーンを良く見かける。このとき、コース上の混雑とタイヤ温度の低さばかりが話題になる。

しかしドライバーの感覚では、ブレーキペダルが折れるほど強く踏み込んでも、全く摩擦力を生み出してくれない感覚の方が強い。

最初の1周近くを、顕児はぶつけず離されずの位置関係をバランス良く維持するのに必死だった。

しかも、『走り出したら、隙間なんか全然ねーよ・・・!』顕児は立った10周で何が出来るか、まだ答えが出せずにいた。

いつ追突しても不思議が無いほどのノーズトゥテールで顕児は純也に貼り付いたまま周回を重ねる。



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posted by 北乃 道晴 at 15:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 045.壁 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

45.壁(2)

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千葉はタバコを口にくわえたまま、ピットから2台の様子を見つめていた。

その傍に孝雄が近づいてくるのに気付くと、千葉は、
「なぁ、顕児はこの10周で抜けると思うか?」とニヤニヤして尋ねた。

「抜けると思ってるんですか?」孝雄が驚いて千葉に答えた。

「抜けなきゃ、それまでだけど。」

あっという間に6周目に入った。

抜きたくても抜く場所が無いことに、顕児は苛立ちを感じていた。

そして、もう1つ感じるものがあった・・・。

FTRSのエキスパート・トレーニングで玉井を抜けずに苛立っている時と同じ状況だ・・・。

FTRSでは、新富士モーターウェイの幅の広い本コースを使ってトレーニングを行う。

だが、走り出すとどうしても追い抜きラインが作れない。

『抜けない理由はコース幅だけじゃないってことか・・・。』

8周目に入った。

「あいつ、カートで走ってたんだろ?何やってんだろうなぁ・・・。」千葉がじれったそうに言った。

そう言ったとたん、顕児が純也のマシンから少し離れ始めた。

「お?」千葉が2台に向けて身を乗り出す。

横に立っていた孝雄にはまださっぱり判らない。



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posted by 北乃 道晴 at 17:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 045.壁 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

45.壁(3)

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ホームストレートを通過して9周目に入った。

ほとんどストレートと変わらない左曲がりの1コーナーを通過して、右曲がりのヘアピンになっている2コーナーへ純也が減速しながら進入しようとした時だった。

純也よりアウトにいた顕児のマシンが急激に方向を変えて、クリッピングポイントへ直進し始める。

「うわ、ぶつかる!」思わず孝雄が叫んだ。

純也はまだクリッピングポイント手前。右側は車半分のスペースが空いている。

そこへ最初に右フロントタイヤを縁石に乗り上げて、わずかに片輪走行になった顕児のマシンが割り込んできた。

正確には顕児のマシンの前後の左側タイヤだけが、純也の右側のスペースに入ってきたのだ。

『お、お前、飛び出すぞ!』純也はヘルメットの中で叫んだ。

今のままの態勢だと、顕児のマシンがヘアピンの外へ真っ直ぐ突き抜けて行くのは間違いなかった。

が、純也を抜き切った直後、顕児のマシンは片輪走行状態で左後輪だけを左側にスライドさせていく。

そして、そのまま4輪全てが路面に接地した。

さすがにいつものような立ち上がり加速は得られなかったが、顕児は純也を従えてヘアピンを立ち上がって行く。

そのまま残る周回を終えて2台はゴールした。

「まぁ、及第点かな・・・。」千葉は孝雄の肩を叩くと、ピットに戻ってきた顕児と純也のマシンの方へ歩いて行った。

「フォーミュラで片輪走行かよ・・・。」孝雄はしばらくその場で、ヘアピンで起きた追い抜きを繰り返し思い出していた。

「ふぅ・・・。」マシンから降りてヘルメットを脱いだ顕児は、釈然としない表情でため息をついた。

後方では純也もマシンを降りている。

「どうだ、何か気が付いたか?」

顕児の背中から千葉が声をかけた。



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posted by 北乃 道晴 at 19:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 045.壁 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする




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