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2009年05月22日

30.それぞれの道(1)

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3月に入って合格発表が過ぎ、卒業式も終えた。

恭子も顕児も、4月からは中学生になる。

久しぶりに、丸山自動車のピットは和やかで、かつ、華が感じられた。

恭子が表彰台で倒れたあの日から、初めてアタコ・サーキットに戻ってきた。

そして、その喜びもつかの間、恭子が去年顕児が更新したコースレコードをたった15周の練習走行で0.4秒も短縮した。

「顕児、お前この1年何してたんだろうな?」唖然とした表情で孝雄がピンクのマシンを見つめていた。

「おれも受験勉強してたんだ。」顕児はうな垂れていた。ぐうの音も出ない心境だった。

「本当の天才だな、恭子ちゃんは。」角谷と森本が心底嬉しそうに恭子の姿を見つめていた。

ピットに戻ってきた恭子は、「私を抜けない限り、プロなんか成れないんじゃない?」と意地悪な目をして言った。

「っせーよ。必ず抜くって言ってるだろうが。」

「そうよ。絶対抜いて見せて。」

明らかに恭子と顕児の関係が変わっていることに、角谷も孝雄も、他のメンバーも気付いていた。

そして、恭子がとても明るく変わっていることに一番驚いていた。

森本が久しぶりの恭子のために、バーベキューの材料を差し入れてくれた。

のんびりとメンバー全員で昼食を楽しんでいるとき、孝雄が「いよいよ全日本にチャレンジしてどんどんステップアップして行きたいね。」と言い出した。

「全日本かぁ。金かかるぞぉ。」角谷が、本気で思案し始めた。

「中学3年間をトップで走り続ければ、フォーミュラのスカラシップを受けることも可能になってきますよ。」

「プロレーサーかぁ・・・。」角谷が、あながち不可能ではないなと恭子の顔を見た。

大人たちの会話が聞こえていない恭子は、クスクス笑いながら顕児と話をしていた。



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posted by 北乃 道晴 at 12:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 030.それぞれの道 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

30.それぞれの道(2)

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「スポンサーとまでは行かないけど、うちのサーキットで後援会を作って多少はサポートできると思うよ。」森本が言い出した。

「ウチの社長も説得できないかなぁ・・・。」孝雄が言い出す。

「恭子ちゃん、今年は全日本にチャレンジしてみるかい?」森本が恭子を呼ぶように声をかけた。

その瞬間、恭子は明らかに困った顔をした。

誰もが、恭子の困った顔を予想していなかった。もちろん顕児も。

「わたし、今年もレースは参加できないんです・・・。」

それまでの楽しい雰囲気が瞬時に静まり返ってしまった。

「レースに出れないって・・・?」孝雄が、そして森本が同時に聞き返した。

「まだはっきりしたことは言えないんですけど、1年かけて英語のTOEICの試験で750点取る必要があるんです。」

「英語・・・?」顕児が、聞いてないぞと言う顔で恭子を睨んだ。

申し訳なさそうに恭子は丸山自動車のメンバーの方を見つめていた。

夕方、恭子以外の誰もが、落胆した気分で帰り支度をしていた。

一通り帰り支度を終えた顕児が恭子のところへやってきた。

「さっきの話、どういうことだよ。恭子!」

「どうって?」

「英語がどうとか言ってたじゃないか?」

「だから、今ははっきりしたことは言えないって・・・。」

「また会えなくなるってことか?」

「私のこと好きで居てって約束したでしょ?あれ、うそ?」恭子が逆に詰め寄る。

「ウソじゃないよ。でも、こんなことになるとは聞いてなかったぞ。」

「顕児クンは知らなくていいの。とにかく好きでいてって約束したんだから、そうしていて。」恭子が涙を流した。

「お、おい・・・。」

それ以上は恭子は何も言わなかった。

そして、顕児から目を逸らしてワンボックス・カーの中に乗り込みドアを閉めてしまった。



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posted by 北乃 道晴 at 15:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 030.それぞれの道 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

30.それぞれの道(3)

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13歳の誕生日を迎えてすぐに参戦した初めての全日本カート選手権KF2クラス西地区で、顕児は散々な結果だった。

恭子の代わりにというわけではなく、昨年度の実績を引っさげて顕児も今年から全日本にチャレンジすると決めていた。

が、これまではアタコへのアクセスの利便性から東地区としてエントリーしていたが、全日本では西地区でエントリーしている。

アタコ・サーキットで走るのと異なり、全日本は日本各地を転戦してレースを行う。レース相手の中には大人も混じっている。

恭子ほど順応性に長けていない顕児は、ほとんど頭の中が真っ白の状態で全日程を終えて帰途についていた。

「まあ、最初はこんなもんだろう。」角谷が凹んでいる顕児に声をかける。

顕児はワンボックス・カーの後ろの席に座り、窓に頭をもたれて外の真っ暗な景色に視線を向けたままでいた。

孝雄も「完走、ポイント取得まで達成できているんだから大したもんだって。」

「道下君やデラクルード君がエントリーしていてくれたから、まだ気持ち的には楽だったよな。」角谷が言う。

今日のレースでは道下が優勝、デラクルードも4位に入賞していた。

「24台中12位・・・、決して悪い結果じゃないよ。」助手席の孝雄も付け加えるように言った。

「なんとなく顕児らしい走り方とは違ったから、慣れてきたらまだまだ結果も付いてくると思うけどね。」

顕児にも孝雄が元気付けようとしてくれているのが判る。

「まあ、そんなに焦るなって。」角谷が諭すように言った。



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posted by 北乃 道晴 at 17:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 030.それぞれの道 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする




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