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2009年05月14日

23.顕児の本音(1)

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F1シーズンも中盤。

今年も暑い夏になった。

はるかを失ったあの夏からちょうど1年。恭子は5年生になっていた。

夏休みの昼間、昨夜録画したF1の決勝を、Tシャツ、ミニスカートの恭子はソファーの上にあぐらをかいてじっと見つめていた。

『ああ!ソノートのマシンから白煙!ナンバー28・・・ああ、宮城だぁ!』

「あー・・・!」恭子も、両頬を両手で押さえた。

宮城はこれで3レース連続で途中リタイアとなってしまった。

今年のシーズン第1選から2戦連続で7位に入ったものの、そのあとは入賞も無く、最近では完走からも遠ざかっていた。

「大変なんだなぁ・・・。」通りかかった母親の耳に、恭子の独り言が聞こえた。

「クルマが壊れちゃうと、どうしようもないものね・・・。」洗い終えた洗濯物を抱えたまま、母親がそれに答えた。

「うん・・・。」

恭子は昨年、あの雨のレースでシリーズチャンピオンを獲得したあと、『東西ジュニア決定戦』に参加した。

顕児が常に傍に居てくれないと、どうしようもないくらい緊張していたのを覚えている。

その時の決勝レースで、恭子のピンクのカートは燃料パイプが外れてガス欠のように止まってしまい、そのまま途中リタイアとなった。

予選までトップを取り続け、決勝ではポールポジションからのスタートだった。

小さな女の子というだけでも「珍しい」と会場の注目を集めていたが、常にトップタイムを出し続けていただけに、本人も会場も大きな落胆を感じた。

ふと、そんなことを思い出しながら、「何が起きるかわからないもんね。」と言った。

そして、テレビに映っている、厳しいながらも冷静さを失わない表情でインタビューに答える宮城を見つめていた。



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posted by 北乃 道晴 at 17:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 023.顕児の本音 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

23.顕児の本音(2)

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今年から恭子と顕児は、中学生と混走するクラスにステップアップしている。

そして、恭子は初戦から連勝を続けており、次回のレースで勝てば、シリーズ中盤でチャンピオンを決定するところまで来ていた。

顕児も2位に3回に入る大健闘を続けていた。

最近の顕児は、週末のカートと、放課後に丸山自動車でパソコンの走行データを見直すのに夢中だ。

また、自分でクルマの修理や調整をしようと、孝雄にべったり付いて質問攻めにしている。

恭子はと言えば、走ること以外は全く素人同然で、顕児や孝雄が呆れていた。

夏休みが明け学校が始まってしばらくした頃、登校してきた恭子は、校舎の外にある倉庫の方で『目立たないように』顕児が1人の女の子と話しているのを見かけた。

昼休み。

恭子が教室でいつものように1人でボーッとしていると、顕児がむっとした表情で教室に入ってきた。

そして恭子のところへ真っ直ぐやってきて、恭子の右腕を掴んだ。

「ちょっと来い!」顕児の声にクラスは静まり返り、恭子も抵抗できないほど驚いた。

顕児は恭子を、朝見た倉庫の前まで連れて行った。

「ど、どうしたの?」恭子がようやく言葉を口にしたとき、

「白鳥さん・・・?」と、女の子の声が聞こえた。

横を見ると、今朝、顕児が2人きりで話をしていた相手の女の子だった。

その女の子から名前を呼んでもらったものの、恭子はそのこのことをほとんど知らなかった。

「樋口、これで判ったろ?だからもう、かんべんしてくれ。」顕児は恭子にはさっぱり判らない一言を、その女の子に返した。

「ほ、本当にそうなの?白鳥さん。」その女の子が、ほぼ最後の力を振り絞って言った。

「そうだって言えよ、白鳥。」間髪入れず、顕児が恭子に追い討ちをかける。

『な、何なのよ!?』恭子はどうして良いかわからない。いきなりパニックに陥った。

恐ろしくなって、恭子は目を伏せようと静かに視線を下ろす。

するとその様子を見た女の子は「わかったわよ・・・。わかった!」と言って、2人から隠れるように倉庫の陰に隠れて行った。

「もう、戻ろう。」顕児は再び恭子の手を掴んで教室に戻った。

『はあ・・・?なに?何?』恭子のパニックは続いたままだった。



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posted by 北乃 道晴 at 20:03 | Comment(0) | TrackBack(0) | 023.顕児の本音 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

23.顕児の本音(3)

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次の日、珍しく恭子が1人で丸山自動車のガレージにやって来た。

そもそもレース帰りに寄る以外はほとんど来ることもないし、来たとしても、「帰り、ちょっと付き合ってくれ。」と顕児が必ず連れて来る。

しかし、今日は1人で来た。

さらに珍しいことに早歩きで。

さすがに心臓が痛み出す。

「おや、どーしたの恭子ちゃん?」

ガレージで顕児にパソコンの使い方を教えていた孝雄が、恭子に気づいて声をかけた。

顕児はパソコンを操作し続けている。

恭子は少し足を開いて立ち止まり、小さく深呼吸する。

「何であんなウソつくのよ!」

今まで聞いたことのない大声が、ガレージの中に響いた。

一瞬の静寂。

呆気にとられて恭子を見ていた孝雄。

『どうやら、顕児が恭子ちゃんに何かしたらしい・・・。』

「顕児、そろそろオレ仕事に戻るから今日はここ閉めるぞ。」とパソコンを立ち下げ始めた。

「えー、何も閉めることないでしょ。」

顕児が抵抗するが、

「だめだ!おまえ、恭子ちゃんに何かしたんだろ?」と、珍しく孝雄は厳しい顔をしている。

「ったく・・・。誰か、何か言ってきたのか?」と、ようやく顕児が恭子に向かって言った。

「みんなよ!わっ、私があんたと・・・、キ、キ・・・。」
どんどん声が小さくなっていく。

「オレ毎週、白鳥を追っかけ回してるから、他の事には興味無いって言っただけなんだけどなぁ・・・。」

顕児は恭子が何のことを言っているかすぐに気付いていた。

「うそ!ぜんっぜん違うことになってるわ!」

「どんな?」

「だ、だから・・・。」また声が小さくなる。

「また何も説明しないで、恭子ちゃんを巻き込んだんだろ?」呆れた顔をして、孝雄が顕児をにらむ。

「悪かったよ。明日、オレがきちんと説明しておくよ。」面倒だなぁといった顔で、顕児が言った。

「・・・。」恭子はもう何を言い返せば良いかも思い付かなかった。



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posted by 北乃 道晴 at 23:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 023.顕児の本音 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする




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