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2009年05月06日

16.報告(1)

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夏休みもあと3日を残した日、恭子は意を決して母親に言った。

「はるかちゃんの家に行きたい。」

これまで恭子の母親とはるかの母親は恭子に配慮して、はるかのことに触れないようにしてきた。

が、恭子本人からはるかの家に行きたいと言われたため、恭子の母親がはるかの母親と連絡を取り、急遽午後から出かけることになった。

はるかの祭壇の前に座り、恭子は母親に習ったように線香をあげた。

母親2人はその様子を居間から見つめていたが、恭子はしばらくその場から動かないでいた。

明るい日差しが差し込む部屋だった。

祭壇の恭子はずうっと笑顔で恭子を見つめていた。

恭子自身が不思議に思ったのだが、とうとう涙は出てこなかった。

はるかの母親がお茶とジュース、お菓子を用意し終えた頃、恭子が居間に戻ってきた。

「恭子ちゃんに渡すべきか悩んでいたんだけど・・・。」と言いながら、はるかの母親が恭子に薄手の小さなアルバムを渡した。

無言で受け取った恭子はアルバムをそっと開いた。

あのお祭りの時の写真だった。

「葬儀の後しばらくして、メールが届いていたのに気が付いたのよ。」

はるかの母親が話し始めた。

「ロンドンに住んでいる写真家の女性だそうよ。休暇を利用して、日本へツアーに来てたそうなの。こんな田舎に来て写して行ったのね。」

大人っぽい笑顔のはるかと、不安な表情の恭子が写っていた。

「はるかちゃん、モデルさんみたいね。」恭子の母親が横から覗き込んで言った。

「うん、外国語で話していたのよ。はるかちゃん。」思い出すように恭子は言った。

「あの子、初めて外国人と英語で話したって興奮して帰ってきたのよ。」目を潤ませながら微笑んで、はるかの母親が言った。

「まあ、英語も勉強していたの?」恭子の母親が驚いて言った。

「宇宙飛行士には英語が絶対必要だって、ね。」

「ロケットの打ち上げ場所には行けたんですか?」気になっていたことを、恭子が聞いた。

「種子島ね。ええ、もう大喜びしていたのよ。あの日に行けて、本当に良かった。」

3人とも祭壇のはるかの写真を眺めていた。

「恭子ちゃん、ゴーカートを始めたんですって?」

「はい。」

「あの顕児君が誘ってくれたんですって?」

無言で頷く恭子。

「良かったわ。みんな少しずつ大人になっていて。」

「最近、顕児君とお父さんがはるかに会いに来てくれたのよ。」
意外だった。

この夏休みの間に、恭子にとって顕児への印象が大きく変わった。

母親たちが話を続けている間、恭子はアルバムのはるかに、自分の気持ちの変化をそっと報告した。

『もしかしたらとても大切なものを見つけたかもしれない。』



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posted by 北乃 道晴 at 07:53 | Comment(0) | TrackBack(0) | 016.報告 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

16.報告(2)

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学校が始まった。

自宅から真っ直ぐ学校へ行くのはほとんど初めてだと思う。

これまでずっと、はるかが体調を崩して休むと連絡してきたとき以外は、必ずはるかの家に迎えに行っていた。

気が重いまま教室のドアを開けると、高井先生がすでに教室にいた。

「おはよう、恭子。」高井が声をかける。

「おはようございます。」静かに答えて、自分の席へと急いだ。

教室はなんとなくヒソヒソと話す子供たちが多かった。

多分はるかのことを話しているのだと思ったが、気にしないようにした。

しばらくして顕児が教室に入ってきた。

いつも一緒にいる男子たちが顕児のそばに集まっていく。

が、それをさっと交わすように真っ直ぐ恭子の席にやって来た。

その様子を高井も見ていた。

「・・・」顕児を見上げて、恭子は緊張した。

教室に入ってきたときから右手に持っていた封筒を、顕児は恭子に差し出した。

「それ、早めに書いておいてくれ。」

「?」

「今度、レースに出るぞ。お前も。」

周囲にいた男子たちが、驚いた顔をした。

「何で、白鳥が?」1人の男子が口にした。

「速ぇーからに決まってんだろ!」顕児がにらみをきかす。

それ以上、誰も何も言わなかった。

「遅くても土曜日には持って来いよな。」

「うん。」

あらかじめ恭子の母親から聞いていたものの、高井はその様子を見て軽く微笑んだ。



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posted by 北乃 道晴 at 11:12 | Comment(0) | TrackBack(0) | 016.報告 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする




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