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2009年04月30日

12.ルーツ(1)

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耳の中で自分の呼吸と心臓の音がコダマする。

「ゼッケン12番!」

遠くで呼んでいる声が聞こえる。

『ゼッケン12番?ああ、私だ・・・。』

気が遠くなりそうな中、必死にその声の方へ進んで行く。

真っ赤なトンネルの先には出口らしい、光の差し込む場所が見える。

「ゼッケン12番、スタート準備。」

そう言った男に、背中を叩かれる。

「頑張って。」

さらに数歩前進すると、真っ白な世界が広がった。

少しずつ焦点が合ってくると、崖のような斜面が足元に伸びていて、赤と青の旗が無数に見えた。

「ピー」

電子音が聞こえた。

「ピー」

2つ目だ。

「ピー」

深く息を吸う。

「ピー」

『行っけぇ!』、一瞬腰を落としたと同時に両腕と右足に全力を振り絞り、一気に前方へ弾き出た。

「ポーン」

真っ白なバーンに、ブルーを基調としスピードを感じさせる白と黄色の模様がプリントされたワンピースのレーシングウェアが躍り出た。

ヘルメットにはハートのグラデーションが鮮やかに描かれている。

恭子は直線的に、そしてどんどんスケーティングで加速していくように、赤、青、赤と旗門をなぎ倒して滑落していく。

滑走ではない。重力に全てを任せるかのように、まさに滑落のイメージで旗門を通過していく。

息を止めている時間が長い。

足に強烈な負担がかかる。

徐々に胸に痛みが襲ってくる。


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posted by 北乃 道晴 at 23:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 012.ルーツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年05月01日

12.ルーツ(2)

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「乗れてる!」

恭子の父親が恭子のラインとスピードを見て叫んだ。

了祐は無言で、母親は瞬きせずに恭子を見つめ続けている。

急斜面から緩斜面へ一瞬変化し、再び最大斜度のバーンに突入する。

先の見えない、大きく振ったラインになっている。

緩斜面最後の青の旗門手前で、恭子はイメージどおりに方向付けを終えた。

そのまま先の見えない急斜面にまっすぐ飛び込んでいく。

わずかに雪面から足が離れたような感触が伝わってくる。

「今だ!」

その瞬間、上体と下半身が大きく反転を始める。

次の赤の旗門への反転動作だ。

『弾き返して!』

雪面に願いを込めて、谷足側となる苦手の左足に全神経を注ぐ。

雪面からの反作用が徐々に伝わり始める。

ここではスライドせずに崖下へ弾き返して欲しい!

そのままトップスピードをさらに高めたい!

祈るような時間が1/100秒の世界で進んで行く。

「ドス!」雪とブーツと、腰骨、腹筋が同時に音を立てたような気がした。

『来た!』理想的な加速が始まった。

『あとはこの勢いを守るだけ!』

最後の急斜面を攻撃的に通過し、ゴール前の緩斜面で心臓が壊れる恐怖感と戦いながら最後のスケーティング!

ゴールと同時に足から力が抜け、転倒しながらスポンジ・バリアまで流されて行って止まった。

「疲れた・・・。」


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posted by 北乃 道晴 at 07:40 | Comment(0) | TrackBack(0) | 012.ルーツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

12.ルーツ(3)

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家族と何人かの大人が駆け寄ってくる。

「よーっく堪えたなぁ!!」

若い男が最初に声をかけた。

息苦しくてなかなか声が出せない。

「コーチ・・・。」

「たぶん、このタイムは抜けないよ!」

駆け寄ってきた母親が恭子に「胸はどう?」と心配そうに尋ねる。

「とにかくここを出なきゃ。」と父親が恭子のスキーを外し、すばやく恭子を背中に担ぐ。

「無理しすぎだぞ、恭子・・・。」そう言いながら、嬉しそうに父親が呟いた。

「勝てるかなぁ・・・。」恭子は父親の背中に顔を押し付け、目を閉じたまま言った。

今回のレースは、天候不順で時間が短縮されたこと、コース運営の都合上もあり、小学中学年クラスでは男子とも同じコースを利用する異例続きだった。

恭子たち女子のレース後、男子のレースも終了。

最終成績が掲示された。

「女子が男子のトップより速かったのか!」

周囲が騒然とした。

小学中学年クラスといえば3年生、4年生が競い合うグループ。

恭子はこの年に3年生になり、初めてこのクラスでエントリーしたのだが、男子4年生のトップタイムを抜いて女子の部の優勝を飾った。

「女子が先に滑ってるから、男子は不利だよ!」

「コースがいいだけ削れてたからな。」

そんな揶揄する声があちこちから聞こえていた。

しかしその時すでに恭子は、表彰式も欠席して帰途に就いていた。

「胸が痛い・・・。」

恭子は後部座席で母親に抱きついたままだ。

「やはり、スキーは心臓に負担が大きすぎるか・・・。」運転席で父親が呟く。

了祐は助手席のチャイルドシートの中でぐっすり眠っている。

心臓病とは言え体力を少しでも付けさせようと幼稚園の頃から始めたスキーだったが、皮肉なことに恭子が夢中になったスキーはアルペン競技のスキーだった。

しかし、それもここまでが限界かと思うと、恭子の父親も悔しさを噛み締めずにはいられなかった。


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posted by 北乃 道晴 at 11:59 | Comment(0) | TrackBack(0) | 012.ルーツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする




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