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2009年04月27日

11.転機(1)

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お盆休みに入る直前の週の、金曜日の夕方遅く、再び角谷が恭子の家の玄関先に現れた。

「こんなお願いをするなんて、非常識だと判っています。ですが、ぜひ・・・。」

明日の土曜日、角谷が勤める自動車修理工場の従業員家族で催すバーベキュー会に、恭子を誘いたいと言って来たのだ。

顕児に恭子のことを良く判らせたい、恭子にも顕児で良ければ友達になってもらいたいと言った。

もちろん、角谷にもそうそう簡単に友達になれるものではないことは判っていた。

ましてや、恭子の両親がそんなリスクに恭子を晒すことは許さないだろうことも判っていた。

だが角谷は、顕児の存在が恭子の不安の原因になっているのなら、夏休みが終わる前に少しでも原因を和らげられないだろうかと必死で考えて提案してきたのだ。

さすがにこの提案ばかりは、恭子の両親も即断しようが無かった。

3人がしばらく黙り込んでしまった玄関先に、思いもかけず恭子が顔を出した。

「何処へ行くんですか?」恭子が角谷に尋ねた。

どうやら居間まで声が届いていたようだ。

「小さな子供たちも大勢来るから、その、なんだ、アタコの森なんだけど・・・。」

「し、知らない人ばかりで最初はちょっと不安かもしれないけど・・・、あ、あの・・・」

必死で角谷が恭子に話しかける。

と同時に、こんなに小さくて華奢な女の子だったんだ・・・とあらためて恭子の顔を覚えようとしていた。

「毎年、おじさんが働いている会社の家族が集まって、いろんなゲームをしたりするんだけど・・・。」

「もちろん、恭子ちゃんのお父さんたちにも一緒に来てもらおうと・・・。」

と、角谷が話しかけたところで、

「おじさん。この間は本当にごめんなさい。」と、恭子が頭を下げた。

『えっ?』

思ってもみなかった恭子のセリフに、角谷の言葉が詰まった。

そして、ふと我に返り、話をはぐらかそうと角谷は「う、うん、それにお父さんたちにも来て貰えれば・・・。」

「明日は、パパもママも弟のサッカーの試合の応援に行く約束をしているんです。」

恭子が返事をした。

「あ・・・」

そうだった、タイミングも考えずに突っ走ってしまったと角谷は後悔した。

「ごめんなさい!皆さん予定があるのを全く考えずに・・・一方的に話をしてしまって。大変申し訳ない・・・。」

角谷がそう言った時、恭子が突然言った。

「ねぇママ、わたしバーベキューに行っていい?」

角谷の目が点になる。

「え、大丈夫!?」

突然の恭子の言葉に、母親が意味のつながらない返事をしてしまった。

「大丈夫って何が?」

少し笑って恭子が言った。

「おじさん、優しいから大丈夫だよ。」

そう言って恭子はもう一度、

「おじさん、こないだは本当にすみませんでした。」と言った。

「ありがとう恭子ちゃん。本当にありがとう!」

角谷はようやく何か1つだけ許されたような気がした。

恭子の両親も、自分たちの娘ながら今回の決断には驚かされた。

そして、ようやく立ち上がろうとしている姿にわずかながら安堵感を覚えた。


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posted by 北乃 道晴 at 20:57 | Comment(0) | TrackBack(0) | 011.転機 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

11.転機(2)

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土曜の朝はこれでもかと言うほどのカンカン照りだった。

『丸山自動車』と両ドアに書かれたワンボックス・カーが恭子の家の前に止まっていた。

角谷の妻、いや顕児の母親と、恭子の母親が携帯電話の番号を交換している。

「行ってきまーす!」

「何か困ったことがあったらすぐに、顕児君のお父さんかお母さんに言うのよ!」

「はぁーい!」

短い会話を交わして、ワンボックス・カーが家の前の通りに出て行った。

アタコの森までは車で1時間ほどかかった。

恭子は運転席のすぐ後ろ、顕児は恭子の後ろの座席に座っていた。

車中、恭子はそれほど口数は多くなかったものの、顕児の母、父、妹の質問に答えて時間を過ごした。

ただ、さすがに顕児とはお互いに言葉を交わすことは無かった。

現地には10時頃に着いた。

すでに角谷の同僚家族が大勢到着していて、バーベキューの準備も始まっていた。

幼稚園くらいの小さな子供たちを中心に、中学生や小学生の男の子、女の子など10数人ほどが、バーベキューを準備している大人たちの周りで楽しそうに遊んでいた。

「お疲れー!」

「いやー、お待たせ!」

「社長は?」

「今日は金だけ(笑」

「おお、それは良くやった!」

大人の男たちはさっそく大騒ぎを始めながら、引き続きバーベキューの準備を進める。

例年、このバーベキューでは家族をゲストにしていて、父親たちが全てを準備する。

たくさん用意されているキャンプ用の折りたたみ椅子に奥さんたちがのんびり座って、めいめいにおしゃべりを楽しんでいた。

恭子も顕児の母親と妹と一緒におしゃべりに加わった。


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posted by 北乃 道晴 at 22:21 | Comment(0) | TrackBack(0) | 011.転機 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年04月28日

11.転機(3)

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50m以上もありそうな長い屋根付きの建物があり、たくさんの仕切で均等なスペースに区切られていた。

恭子たちはその中のひとつのスペースを日よけに利用してお喋りをしていた。

時おり心地良い風が吹き込んで来て涼しく感じたが、なんとなく油っぽい臭いを感じた。

その時、

「ビィィィィーンー」

「カーンッ」

「キョッキョッキョッ」

と、恭子の背後から大きな音が飛び込んできた。

恭子はその音にヒヤッとした。

慌てて振り返ると、ガードレールの上から見えたヘルメットがもの凄いスピードで通過していった。

そのまま立ち上がると、数台のゴーカートが大きなコースをぐるぐる回っている。

「びっくりした?」

顕児の母親が心配そうに恭子を見た。

「ここ、何なんですか?」

恭子がコースを向いたまま聞くと、

「おじさんたちね、ゴーカートとバーベキューを楽しみたくて、皆をここに連れてくるのよ。」と顕児の母親が笑って答えた。

もう一度振り向いてよく見ると、駐車場にまとまって停めてある『丸山自動車』と書かれた車のうち1台から、大人たちが数台のゴーカートを下ろし始めていた。

「おーい顕児、自分のクルマは自分で持ってけ!」

角谷が顕児に向かって声をかけている。

1台の真っ青なゴーカートが、銀色のスタンドの上に乗せられて角谷の脇に置かれていた。

顕児はどこかと恭子が探すと、さっきまでと違う服装でそのゴーカートの方に向かって歩いている。

あの顕児が、なんだか格好良く見えるのが不思議だ。

コースの方をもう一度振り向いてよく見ると、大きく「アタコ・サーキット」と書かれた看板があることに初めて気が付いた。

『ゴーカートかぁ・・・。』

初めて見る風景だった。

大人の男たちの半分と数人の男の子たちがゴーカートの準備の方に、残りの大人の男たちと子供たちはバーベキューの準備の方に集まっていた。

「何かもう食べれそうな物はある〜?」と、顕児の母親がバーベキューチームの方に声をかけた。

「まだっすよー!もうしばらく、その辺に置いてあるお菓子でもつまんでてください!」と、バーベキューの準備をしていた若い男が笑って答えた。

顕児の母親がお菓子の山を覗きに行っている間、恭子は立ち上がって、今まで背にしていたコースの方を見続けていた。

ゴーカート・チームの方では、何人かがゴーカートに飛び乗って走り出していた。

その中に顕児らしき姿もあった。

白いヘルメットを被っている姿ではあったが、さっき見たウェアの色で直ぐ顕児だろうと判断した。

全身がオレンジのウェアだ。

顕児が父親に手伝ってもらいながら、ゴーカートの後ろを持ち上げて、勢いよく前方に走り出し、ドスンとゴーカートを地面に落とすと、慣れた感じですばやく飛び乗った。

「ビビィィー」と小さめの音がしたと思うと、直ぐに「ビィーン!」と甲高い音に変わる。

さっと左手を上げながら後ろを見て、その直後にもの凄い勢いでコースに出て行った。

「恭子ちゃんも見てきたら?」

お菓子の袋を3つほど持ち帰ってきた顕児の母親が、恭子に言った。

「いえ、いいです・・・」と、あせって恭子が答えた。

「おじさんたちや、男の子は皆好きなのよねー、クルマが(笑。」
『顕児君ってゴーカートやってるんだ・・・』

初めて顕児の別の顔を知ったことに、恭子はちょっと驚きを覚えた。

それもあんなに速く走るクルマに乗って走っている。


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posted by 北乃 道晴 at 10:18 | Comment(0) | TrackBack(0) | 011.転機 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする




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